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東京地方裁判所 昭和31年(行)30号 判決

東京都中央区京橋一丁目一番地八

原告

株式会社 小西光沢堂本店

右代表者代表取締役

小西清平

右訴訟代理人弁護士

金原藤一

青柳洋

金原藤一訴訟復代理人弁護士

原田昇

同千代田区大手町一丁目七番地

被告

東京国税局長

中西泰男

右訴訟代理人弁護士

仁科哲

右指定代理人

簑輪恵一

川合弘

右当事者間の昭和三一年(行)第三〇号審査決定取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、双方の申立

(原告)

原告の昭和二二年一二月一日から昭和二三年一一月三〇日までの事業年度分法人税に関し、被告が昭和三〇年一二月二一日付で原告の所得金額を二、一三九、〇二三円とした審査決定のうち所得金額八三一、四八八円を超える部分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

原告の請求を棄却する。

第二、原告の主張

一、原告は時計硝子、眼鏡レンズ等の製造販売を業とする株式会社であるが、昭和二二年一二月一日から昭和二三年一一月三〇日までの事業年度(以下本件事業年度という)分法人税に関し、昭和二四年三月一八日京橋税務署長に対し所得金額八三一、四八八円と確定申告したところ、同税務署長は昭和二八年一二月三日に至り、同年一一月三〇日付で所得金額を二、四四五、三四八円と更正し、原告に通知してきた(なお、右決定と記載事項において多少の差異があるが結果はほぼ同様の決定を同年一一月二八日付で原告に通知してきているが、前者は後者を訂正したものとみられるから、前者の一一月三〇日付通知が正当であると考える)ので、原告は同年一二月二八日再調査の請求をしたが、同税務署長は三カ月以内に再調査の決定をしなかつたので審査請求として取扱われることになり、被告において昭和三〇年一二月二一日付で更正決定額を一部取消し、所得金額を二、一三九、〇二三円とする旨審査決定をし、昭和三一年一月一一日その旨原告に通知した。

二、しかしながら、本件事業年度の所得金額は、原告において確定申告した八三一、四八八円が正しいのであるから、被告のなした審査決定は、原告の所得を過大に認定したものというべく、その右金額を超える部分は違法である。よつて、右超過部分の取消を求める。

第三、被告の答弁及び主張

一、原告の主張第一項の事実は認める。ただし、京橋税務署長のなした更正決定の日付は昭和二八年一一月二八日である。同第二項の主張は争う。

二、本件事業年度の所得金額は、以下のとおり二、一三九、〇二三円であるから、被告の審査決定には所得を過大に認定した違法はない。

1、課税根基

(一) 原告会社決算所得金額 八二三、九二六円

(二) 加算金額 一、五三九、〇二九円

(1) 減価償却超過額 二二、二〇一円

(2) 架空負債否認(売上計上洩) 一、〇〇三、六九六円

(3) 棚卸格下げ否認 四二八、七五九円

(4) 認定家賃計上洩 六七、二〇〇円

(5) 保険料未経過分否認 一七、一七三円

(三) 減算金額 二二三、九三二円

(1) 未払営業税 二二三、九三二円

(四) 差引所得金額 二、一三九、〇二三円

2、右のように会社決算所得金額に加算、減算した理由について、本訴において争いのある項目別に説明すれば次のとおりである。

(一) 架空負債否認(売上計上洩)一、〇〇三、六九六円について原告会社が決算書負債の部に計上した得意先勘定は一、〇〇七、〇三六円七一銭である。しかし東京国税局協議団本部所属の担当協議官が原告会社の得意先勘定元帳の提出を求め直接調査したところ、その借方合計は一三、九六四円六〇銭、貸方合計は一七、三〇四円九六銭、差引貸方残高は三、三四〇円三六銭であり、右額が正確な数額であることが判明した。そこで被告は、原告主張額一、〇〇七、〇三六円七一銭と右被告調査額三、三四〇円三六銭の差額一、〇〇三、六九六円三五銭は架空であり、売上計上洩を負債科目に仮装したものと認めて否認のうえ、原告計上の売上高(一六、六三五、二六八円四三銭)に加算したのである。

なお、右架空負債一、〇〇三、六九六円については原告会社自ら本件事業年度の益金として自認しているのである。

すなわち、原告会社は、被告により本件事業年度の益金として加算された右金額のうち、九八九、七六〇円を昭和二六年一二月一日から昭和二七年一一月三〇日までの事業年度において決算利益に計上した結果、九八九、七六〇円については本件事業年度と右事業年度との二回に重複して課税される結果となるので、原告会社自ら、右事業年度の確定申告にあたり、所得金額の計算上その除算欄において「昭和二三年度得意先勘定残高訂正による課税済分」として利益から除算してきたのである。なお、本件事業年度における加算額一、〇〇三、六九六円と右事業年度における原告会社自らの除算額九八九、七六〇円との差額一三、九三六円については、本件事業年度から右事業年度に至る間の事業年度において、すでに原告会社の決算利益に算入されており、したがつて原処分庁は、それぞれ原告会社が決算利益に算入してきた事業年度の課税所得算出の際に除算して更正処分を行つたものであり、この処分については異議の申立もなく、すでに原告会社も了知しているところである。

(二) 棚卸格下げ否認四二八、七五九円について

原告会社の決算書資産の部当期棚卸高七〇二、〇七八円はその数量価額について検討するに、次のとおり一、二五六、四八五円が正当な額であるので、その一割の評価減を認め、一、一三〇、八三七円を正当な額と認め、その差額四二八、七五九円を否認のうえ加算した。

(棚卸高一、二五六、四八五円の算出根拠)

(1) 原告会社が計上した棚卸金額(別紙棚卸比較表の会社欄記載のとおり)七〇二、〇七八円について当初調査にあたつた調査担当官が会社の評価額が時価に比し低い点を指摘したところ、会社は当時の時価による棚卸表(乙第二号証)(合計額一、二七八、七一四円)を提出したのでこれについて検討した結果、本店棚卸額九一四、八一〇円は妥当なものと認め、大阪支店棚卸額三六三、九〇四円のうち、荒生地八三貫六〇〇匁、単価二五〇円計二〇、九〇〇円と石炭中塊一一・八屯、単価三、五〇〇円計四一、三〇〇円については、当時原告会社と大阪支店長小西進との間に訴訟が行われており(東京地方裁判所昭和二四年(ワ)第三九三二号利益金引渡請求事件。以下別件訴訟という)、調査担当官が調査時会社側の資料を調査した結果、荒生地については数量八三二貫七〇〇匁、単価二五〇円計二〇八、一七五円、石炭中塊については数量三二屯、単価五、八四四円計一八七、〇〇八円が正当な数額であることが判明したので、以上の点を補正のうえ、大阪支店分六九六、八八七円を妥当な額と認め、総計一、六一一、六九七円を算出して(別紙棚卸比較表の原処分欄記載のとおり)。

(2) その後、原告会社の審査請求に基いて東京国税局の担当協議官は原処分の棚卸額について再度検討したが、東京本店分の棚卸について、時計用硝子の標準品である厚山七―一〇型につき原告会社の原価計算の基礎をただしたところ、原告会社から、原価計算の基礎を記載した紙面(乙第三号証)が提出されたので、これを採用した結果、単価五七銭を妥当なものと認め、原告会社の決算書の四七銭と比較しその倍率を求めたところ一・二一倍になつたので、その他の時計用硝子についても同程度の評価額の格下げがあつたものと認めて会社決算書の単価に倍率一・二一を乗じ、東京本店分の棚卸額五五〇、九八七円を算出した。

大阪支店分の荒生地及び石炭については、原処分庁の認めた荒生地八三二貫七〇〇匁は当時の大阪工場における荒生地生産高(昭和二三年二月から同年一一月までの平均月産量二、三三八貫六三九匁)からして妥当であり、(なお、右八三二貫七〇〇匁の数量については被告の調査当時、原告会社代表者小西孝信がこれを承認していたので右数量を採用した事情にある)、単価二五〇円についてはむしろ低すぎるものであつて、別件訴訟の資料によれば原告会社も自家消費額の算定に単価三〇〇円を主張している点からして単価三〇〇円を妥当なものと認め、荒生地棚卸額を二四九、八一〇円(500×832.7)と算定した。また石炭については、数量の点においては原処分庁の認めた三二屯の在庫は別件訴訟の資料(石炭荷渡明細)からしても妥当なものと認めたが、単価の点では、石炭商吾妻商会、北星燃料等の当時の時価につき調査の結果、石炭中愧屯当り単価四、八一二円を算出したので、これを妥当な額として棚卸額一五三、九八四円を算出した。

以上のほかは原処分庁の算定額を妥当なものと認め、棚卸額合計一、二五六、四八五円を妥当な額として算定したのである(別紙棚卸比較表の審査欄記載のとおり)。

第四、被告の主張に対する原告の答弁

一、被告が課税根基として主張する項目、金額中、加算金額の部の架空負債否認(売上計上洩)一、〇〇三、六九六円、及び棚卸格下否認四二八、七五九円につき以下のとおり反論するほか、その余の加算減算の各項目、金額については、本訴においてはあえて争わない。

二、架空負債否認(売上計上洩)一、〇〇三、六九六円について。

1、原告が得意先勘定として負債に計上した一、〇〇七、〇三六円は、真実、得意先に負つていた債務であつて、否認さるべきいわれはない。いわんや、被告主張額との差額が売上計上洩であるというのは、理由のない認定であるというほかない。右負債勘定は、原告が得意先へ売却送品した商品について返品のなされたもの、売上商品よりも送金額が超過したもの、或いは得意先から借入れたものなどであるが、いずれも原告が得意先に対し支払うべき負債である。右得意先勘定の借方計一五、八九八、八二二円、貸方計一六、九〇五、八五八円(差額一、〇〇七、〇三六円)の内訳は、甲第二一号証に記帳のとおりであつて、なんら疑う余地のないものである(後日訴訟のために作為しようと思つても、これだけの内容のものをとうてい作為しうるものではない)。その貸方残高を分類すれば、(一)内地分四〇八、一二〇円五四銭、(二)ニユーヨーク市アメリカン、パーフイツト商会返品分二五五、六〇三円六〇銭、(三)借入分を一時得意先勘定貸方に記帳した分三四二、九六六円九七銭、(四)シンガポール入金預り分三四五円六〇銭である。

2、被告は、担当協議官が原告の得意先勘定元帳の提出を求め調査したところ借方合計は一三、九六四円六〇銭、貸方合計は一七、三〇四円九六銭、差引貸方残高は三、三四〇円三六銭であることが判明したと主張しているが、原告方には得意先勘定元帳という帳簿はないばかりでなく、原告の得意先勘定はルーズリーフの帳簿に記載され、貸方借方差引零になつたものははずされて整理されていたものであるから、被告の右調査は、結果からすれば、調査当時(昭和二七、八年頃)まで残されていた数字を集計したものにすぎず、本件事業年度末当時の全部の集計ではないのである。このことは、被告が調査結果を記載したものと主張する乙第四号証の二ないし五を見ても、外国向取引が含まれていないことからも明らかであり、又、原告の千五百万円ないし千六百万円に及ぶ取引総額から考えて、一、〇〇七、〇〇〇円程度の残高が生ずるのは自然のことであり、これが被告主張のように、借方貸方がそれぞれ合計二万円足らずなどということは、それ自体とうてい信用できない数字といわねばならぬことからも明らかである。

3、被告は、原告が自昭和二六年一二月一日至昭和二七年一一月三〇日事業年度分の確定申告にあたり、所得金額の計算上、自ら昭和二三年度得意先勘定残高訂正による課税済分として除算したことを理由に、得意先勘定の架空負債一、〇三、六九六円について原告自ら本件事業年度の益金であることを自認している旨主張するが、この主張が正当であるためには、右確定申告に対する更正決定においても右除算が是認されたことが必要であるものというべきところ、右更正決定においては右除算を是認していないのであるから、結局、被告の主張は正当でない。

三、棚卸格下げ否認四二八、七五九円について。

原告会社が計上した期末棚卸金額が別紙棚卸比較表の会社欄記載のとおりであることは認める。右記載の数量、単価、金額がそのまま正確なものであり、合計七〇二、〇七八円である。

1、ところで、被告は本訴において、原告会社の棚卸金額につき、第一準備書面(昭和三一年五月二四日付)では一、一三〇、八三七円と主張したが、第二準備書面(同年八月一六日付)では一、七三九、八六〇円と訂正し、しかも品目別の明細一覧表を添付した。そして第四準備書面(昭和三二年六月一〇日付)では、その認定した理由について詳細な説明をした。ところがその説明に致命的な計算上の誤りがありとうてい是認されるべきものでないことを原告から指摘され、第五準備書面(昭和三三年七月一二日付)においては三転して、棚卸高一、二五六、四八五円、棚卸格下げ否認四二八、七五九円と主張し、これについても品目別明細表を提出するに至つたのである。

いうまでもなく本件訴訟は、被告のなした審査決定(その前提たる更正決定も含めて)の当否を審理するものであり被告が原告の申告を否認して審査決定をした根拠は当然明確にされているべきものであつて、二転、三転するような性質のものではない筈である。右第五準備書面記載の数字が最終的な主張だとしても、それならばそれ以前に提出主張された品目別の明細な説明は、単に更正決定や審査決定を正当ならしめようとして作為された作文にすぎなかつたのであろうか。誤りであるから訂正する、これと矛盾する従来の主張は撤回する、というには余りに根本的な問題を含むものであつて、簡単に訂正すれば事足る問題ではない筈である。

2、被告は、棚卸高について更正の合理的説明に窮した結果、最終的にはすべて、原告側が棚卸表を提出して被告主張のような価額を承認したとの一点のみを主張して糊塗しようとし、乙第二、第三号証を提出している。しかし、これらの書面は全く紙片に略書したメモにすぎず、何時、いかなる事情で誰により作成されたものか不明瞭であるのみならずかりに原告側より提出されたものであつたとしても、棚卸額が七〇二、〇七八円(原告会社計上額)、或いは一、一三〇、八三七円(被告第一準備書面)、或いは一、七三九、八六〇円(被告第二、第四準備書面)、或いは一、二七八、七一四円とした同様のメモが多数作成されている筈であり、同様に、時計用ガラス厚山七―一〇型の単価についても四七銭(原告会社計上額)、八〇銭(被告第二、第四準備書面)、九五銭(原処分)、五七銭(被告第五準備書面)とする各種メモが各種の機会に提出されていたものであり、乙第二、第三号証がとくに原告の承認した価額であると証明しうる資料は何もない。もし被告の主張するように、原告の承認した価額であるならばあえて訴訟にまで至らなかつであろうし、又、原被告とも合意した価額であるなら修正申告の方法により円満に処置できた筈である。

3、棚卸資産の評価については原価法、時価法、売価還元法その他数種の評価方法があり、その選択が納税者に任せられているとしても、いつたん採用した評価方法を変更することは税法の禁止しているところである。しかるに本件においては、原告の採用した原価法を税務官吏自ら変更を敢てし、もつて利益を多額に計上せんとしているのであつて、真に不当である。

4  時計用ガラスの単価について

被告が時計用ガラスの単価について詳細に説明主張したのは、「時計用ガラス厚山七―一〇型を八〇銭とし、その理由につき、「時計用ガラスは荒生地一貫目から各型を平均して六グロス(七二ダース)の製品ができ、その枚数は八六四枚である。しかるに荒生地一貫目の原価は三〇〇円であるから、一枚の生地代は三四銭である。これを切断し、研磨し、整形して製品となるのであるが、原告会社代表者小西孝信の説明によれば切断費一銭、研磨費二四銭、整形費二一銭を要するということだつたので、してみると製品の原価は、生地代三四銭、切断費一銭、研磨費二四銭、整形費二一銭の合計八〇銭である。厚山七―一〇型が規格の平均品であるということだつたので、右型の原価として右八〇銭を採用した。そして、右型の原告会社計上額は四七銭であつたが、原告会社の記帳単価は実際の原価よりも低く表示したものと考えられた。四七銭と八〇銭の比率は一対一・七〇二であり、厚山七―一〇型が平均品であるとのことであつたから、時計用ガラスの他の型についても、原告会社棚卸表記載の単価に一・七を乗じ、それぞれの単価とした。」旨主張した際(第四準備書面)であるので、これについて反論する。

荒生地一貫目から六グロス八六四枚の製品しかとれないとすると、その重量は約百匁にすぎないから、わずか一割しか製品にならず九割がロスになる計算になるのであつて、このようなことはとうていあり得べきことではない。荒生地一貫目からは、その五割程度がロスになる結果、どんなに少なく見積つても平均四、〇〇〇枚の製品がとれるのが普通なのである。そして、荒生地一貫目の原価は二五〇円である(三〇〇円というのは荒生地自体を他に売却する場合の価額である)から、生地代は一枚六銭である(切断費はこれに含まれる)。これに整形費四銭、研磨費七銭を加えると、一枚の原価は一七銭となる。ところで時計用ガラスは、ゲージをさして使用できる製品となるのは全体の約半分であり、残り半分はロスとなるので、一枚当り平均価額は三四銭となる。これにレベルその他の諸経費を加えて一枚当りの単価は四七銭となるのである。本件確定申告当時は、一般に時計用ガラスの単価は平均三〇銭を卸売価としていたのが業者一般の例であり、これを一枚八〇銭としたのは被告が徴税せんためにした全く理由なき認定である。

これに加えて、被告は厚山七―一〇型が平均品であるとして、四七銭と八〇銭との比率一・七〇二を他の製品についても一率に乗じてそれぞれの単価を算出しているが、各製品とも生地代、整形費、研磨費等はそれぞれ異るのであるから、右のような方法では適正な原価が算出される筈がなく、被告の計算は机上の空論といわねばならない。

5、大阪工場荒生地在庫について。

被告は、八三二貫七〇〇匁と認定した根拠として、第四準備書面において、大阪支店における本件事業年度末の記帳在庫量二、四九三貫五〇〇匁から、原告会社・小西進間の別件訴訟における原告会社の主張額によつて推算される大阪支店長小西進の不当処分量一、一〇〇貫を差引いた一、三九三貫五〇〇匁の範囲内で、これを八三二貫七〇〇匁と認定した旨主張しているが、右主張は、申告後五年近くも経過してから都合のよい推算をしているものであり、しかも、右小西進の不当処分量一、一〇〇貫なるものは、被告の推算に従えば当然一一、〇〇〇貫となるべきものを、自ら計算上の誤りを犯して、一、一〇〇貫としているのであつて、もとより、二、四九三貫五〇〇匁から右一一、〇〇〇貫を差引くことは不可能事であるから、このことだけでも被告の右計算が信を措けないものであることは明らかである。被告はその後この致命的な計算上の誤謬について、原告の指摘に対しなんら反論するところがないが、恐らくは弁明する余地がないからであろうと思われる。

なお、当時荒生地は、原告方で生産したうちのごく一部を自家使用し、他の大部分は配給に廻していたのであり、少しでも多くの配給を受けようとする者が多数存する時代に原告が一カ月の生産量(約一、〇〇〇貫)に近い荒生地を在庫として保有することはとうてい許されない事情にあつたのである。又、荒生地八百余貫といえば、リンゴ箱に一杯つめて(約五貫)六〇箱以上となり、このような多量の荒生地を在庫として残しておくわけがないのであつて(生地を在庫として残しておくことは、塩をふいたりその他のロスが生じそれだけ製品生産量を減らすことになる)、被告主張の数量が真実味のないことを物語つているのである。

6、大阪工場石炭中塊の数量について。

被告は、第四準備書面において、大阪工場の帳簿に四一屯と記載されていたから、四一屯を採用したと主張した。この数量が、真実のものだと思うなら何故最後までこれを主張しないのであろうか。第五準備書面においてはこれを三二屯と主張の訂正をしたのは何故であろうか。これを要するに被告が数年後にかつてに想定した数字にすぎず、真実性のないことを物語るものである。又、当時石炭は、原告も配給公団から配給を受けていたのであり、一カ月のうち十二、三日位しか生産ができなかつた状況からも三二屯という多量の石炭が在庫として存したわけがないのである。

7、大阪工場荒生地の単価について。

被告は、荒生地単価を一貫目当り三〇〇円と主張し、その根拠として、原告が別件訴訟で主張した価額を採用したとしている。しかし、別件訴訟は小西進が不当処分したものについての損害賠償を請求したもので、したがつて、その単価三〇〇円という価額は原告が生地自体を他に売却(配給)する場合の売却価額を基礎としたものであるから、もとよりそれは生産原価ではなく、そのまま課税対象たる在庫評価額となるべきものではない。けだし、原告の棚卸評価方法は、取得原価プラス加工賃の原価法を一貫して採用しているものだからである。

8、大阪工場の未加工品、半製品、未製品の単価について。

被告は、これら各単価について、第四準備書面においては、順次三五銭、五九銭、五九銭であると主張したのであるが、これらの計算は、前記4に記載のとおり、荒生地一貫目から六グロスの製品しかとれないという誤つた前提に立つものであるから、同様に失当である。その後被告は、第五準備書面において、それぞれ、一二銭、二六銭、五五銭と訂正主張するに至つたが、その算定の理由、或いは変更の理由については、なんら主張、立証していない。

これに対し原告が主張する価額の理由は、前記4に記載のとおり、未加工品については荒生地の単価六銭であり、半製品については荒生地代六銭、整形費四銭の合計一〇銭ということに一応なるが、半製品中約四分の一がロスとなるので、平均単価は一三銭となるのであり、未製品については右半製品単価一三銭に研磨費七銭を加えた二〇銭ということに一応なるが、未製品も九分の二はロスを生ずるので平均単価は二七銭となるのである。

9、大阪工場石炭中塊の単価。

被告は、第四準備書面において、配炭公団からの仕入価格を基にして、単価を五、八四四円と主張したが、その根拠としたとされる配炭公団大阪支局の元帳には、本件事業年度中の石炭仕入価格として最低一、七四二円から最高五、八四四円まで各種の価格が記載されているのであるから、その最高価格を採つて在庫価格とすることは不当である。なおこの単価についても、被告は第五準備書面において四、八一二円と訂正するに至つたが、右訂正の理由についても、単に吾妻商会等の業者を調査した結果、算定したというだけで、何時いかなる方法で、いかなる調査をしたのかについてはなんら触れていない。

これに対し原告は、在庫として残つている石炭は品質も悪い粉炭のようなものが多かつたので、平均単価三、五〇〇円としたのであり、右最低価格、最高価格からして、右三、五〇〇円を在庫価格とした正当性は自ら明らかというべきである。

第五、立証

原告は、甲第一号証、第二号証の一、二、第三号証ないし第二一号証を提出し、証人松本憲一、同杉井永重、同谷口末吉、同小西よし子の各証言を援用し、乙第一号証、第五号証の一、二、第六号証ないし第八号証はいずれも成立を認めるが、同第二号証第三号証、第四号証の二ないし五の成立はいずれも否認する。同第四号証の一、第五号証の三ないし五の成立はいずれも不知、と述べた。被告は、乙第一号証ないし第三号証、第四号証及び第五号証の各一ないし五、第六号証ないし第八号証を提出し、証人中村信行、同中山四郎の各証言を援用し、甲第一号証、第三号証、第五号証ないし第一〇号証、第一二号証ないし第二〇号証はいずれも成立を認めるが、同第二号証の一、二、第四号証、第一一号証第二一号証の成立はいずれも不知、と述べた。

理由

一、原告の主張第一項の事実は当事者間に争いがない(ただし、京橋税務署長がした更正決定の日付の点を除く)。

二、被告は、原告会社の本件事業年度の所得金額は審査決定において認定したとおり二、一三九、〇二三円であると主張するのに対し、原告は、所得金額は確定申告したとおりの八三一、四八八円にすぎないから被告の審査決定中右金額を超える部分は違法であると主張するのであるが、被告が右認定の根拠として主張する(一)原告会社決算所得金額、(二)加算金額、(三)減算金額の各項目、金額(被告の主張第二項の1)のうち、加算金額の部の架空負債否認一、〇〇三、六九六円及び棚卸格下げ否認四二八、七五九円の二項目を除き、その余の加算減算の各項目金額については、原告は本訴において争わないとしているので、以下争いのある右二項目について被告の認定の当否を考えてみることにする。

1  架空負債否認(売上計上洩)一、〇〇三、六九六円について。

原告会社が決算書負債の部に計上した得意先勘定金額が一、〇〇七、〇三六円七一銭であることは当事者間に争いがない。原告は、右金額は真実原告が得意先に負つていた債務であるから否認さるべきいわれはないと主張するのであるが、証人中村信行の証言によつて成立を認める乙第四号証の一、同証言及び証人谷口末吉の証言によつて成立を認める乙第四号証の二ないし五、成立に争いない乙第五号証の一、二、公文書であるから成立の真正を推定すべき乙第五号証の三ないし五、証人中村信行、同中山四郎、同谷口末吉、同小西よし子の各証言を総合すると、(一)担当調査官中村信行が昭和二七年七、八月頃原告会社に赴き本件事業年度所得金額の調査をした際、決算事務を事実上専行していた社長亡小西孝信に対し、得意先勘定の真実の金額をただしたところ、同人が、部下社員をして、得意先補助簿の記載から昭和二三年五月三一日現在と同年一一月三〇日現在との得意先に対する各貸残、借残を全部摘記させたうえ、これを中村調査官に提出したこと(乙第四号証の二ないし五)、(二)右摘記された得意先勘定を集計すると本件事業年度末である同年一一月三〇日現在における貸残は一三、九六四円六〇銭、借残は一七、三〇四円九六銭、差引借残が三、三四〇円三六銭となること(乙第四号証の一)、(三)このような結果について小西社長は、本来売上げとして記帳すべき現金売り分の入金を、誤つて得意先人名勘定の貸方へ記帳した、すなわち、売掛けの入金として処理した分があるというような陳弁をし、結局、決算書計上の得意先勘定負債金額(一、〇〇七、〇三六円七一銭)と右三、三四〇円三六銭との差額(一、〇〇三、六九六円)が会社の架空負債であつて、本件事業年度分の益金として課税対象とされることを承認する趣旨のもとに、その後間もなく自昭和二六年一二月一日至昭和二七年一一月三〇日事業年度分確定申告書を提出するにあたり、その一部である九八九、七六〇円を「昭和二三年度得意先勘定残高訂正による課税済分」として利益金の計算から除算のうえ確定申告したこと。(四)原告から審査請求に際し、得意先勘定については輸出取引による借入金ないし預り金債務が存していたとの主張に変つたため、担当協議官中山四郎が、昭和二九年八月頃、本件事業年度当時原告会社が輸出手続を委嘱したという佐々木硝子株式会社につき調査したところ、本件事業年度末当時原告会社としては貿易関係の決済は全部なされていて、他からの預り金等は存しなかつたとの回答を得たこと、以上のような事実を認めることができる。証人谷口末吉、同小西よし子の各証言中、右認定に副わない部分は採用しない。

右のような事実に、前掲中村信行、中山四郎の各証言を合せ考えれば、原告会社の本件事業年度末における得意先勘定の負債金額は、前記三、三四〇円三六銭が真実のものであつて、原告会社計上の一、〇〇七、〇三六円七一銭との差額一、〇〇三、六九六円三五銭は架空負債と認定するのが相当であるから、一、〇〇三、六九六円を否認のうえ原告会社の益金に加算した被告の認定に誤りはないものといわなければならない。

原告が、得意先勘定を正確に記帳したものとして提出する甲第二号証の一、二、同第二一号証、並びに証人松本憲一の証言及び甲第四号証は、いずれも前掲証拠に照しそのまま採用するわけにはいかない。また、原告会社が自昭和二六年一二月一日至昭和二七年一一月三〇日事業年度の確定申告においてなした前記認定の除算九八九、七六〇円が、同年度分更正決定においてもそのまま是認されたものであることは、前掲乙第五号証の三ないし五により明らかであるから、この点に関する原告の非難は当らないものというべきである(なお、本件事業年度分の架空負債否認額一、〇〇三、六九六円と右除算額九八九、七六〇円との差額については、すでに右自昭和二六年一二月一日至昭和二七年一一月三〇日事業年度以前の事業年度において、利益金から除算され、税務当局にょり是認されているものであることは、証人中村信行の証言によつてこれを認めることができるのである。)

2  棚卸格下げ否認四二八、七五九円について。

原告会社が決算書負債の部に計上した期末棚卸金額が七〇二、〇七八円であること、その内訳数量、単価、金額が別紙棚卸比較表の会社欄に記載のとおりであること、はいずれも当事者間に争いがない。これに対し被告は、別紙棚卸比較表の審査欄に記載のとおり一、二五六、四八五円であると主張し、原告の主張との間に右のように合計額の相違を来すのは、結局、(一)時計用ガラスの単価、(二)未製品、半製品、未加工品の各単価、(三)荒生地の数量及び単価、(四)原燃料石炭中塊の数量及び単価、に関する主張の喰違いによるためであるから、以下順次右争点について考えてみる。

(一)  時計用ガラスの単価

証人中村信行、同谷口末吉の各証言によつて成立を認める乙第二号証、証人中山四郎、同谷口末吉の各証言によつて成立を認める乙第三号証、証人中村信行、同中山四郎、同谷口末吉、同小西よし子の各証言を総合すると、(一)担当調査官中村信行が、調査当時原告会社に残されていた伝票類について調査したところによると、原告会社では本件事業年度当時において、その製造販売にかかる時計用ガラスを、たとえば厚山七―一〇型のガラス(取扱品目のうち取扱高も最も多く、標準的な品目である)についてみると、一枚につき四円くらいの値段でこれを販売していたにかかわらず、その製造原価は、帳簿上一枚四七銭という記帳となつているという具合に、かりに右原価の記帳が正確なものとするなら、売却値段のほとんど九割くらいが差益とならねばならぬこととなり、会社の計上する差益(三割二分ないし四割くらい)との間に著しい懸隔が生ずることとなつて、いかにも不合理と考えられたので、小西孝信社長に対し、数量の点はともかく、評価の点において低額すぎるのではないかとただしたところ、同社長もこれを自認し、適正な評価額を示してもらいたいとの同調査官の求めに応じて昭和二三年度棚卸表と題する乙第二号証を作成提出してきたので、時計用ガラスに関する部分につき全面的に右の記載内容を容認して原処分がなされた(別紙棚卸比較表の原処分欄記載のとおり)こと、(二)次いで審査請求の段階において、担当協議官中山四郎が、小西社長及び部下社員谷口末吉に対し、標準品たる厚山六―一〇型について原価計算の基礎を示すよう求めたのに対し、これを示した乙第三号証を提出し、かつ、これによると右厚山七―一〇型の原価は一枚五七銭(生地代一一銭、加工賃四六銭(整形費二一銭、研磨費二四銭、切断費一銭)の合計)ということであつたが、当初申告の一枚四七銭と右適正価格たる五七銭との間の増差割合と同程度の評価格下げは、他の型のガラスについてもなされているということを承認したので、被告は、右を妥当なものとして採用し、すなわち厚山七―一〇型を五七銭と認定し、その余の型についてはこれを基準にして算出認定する審査決定をなしたものである(別紙棚卸比較表の審査欄記載のとおり)こと、の各事実を認めることができる。証人谷口末吉、同小西よし子の各証言中、右認定に副わない部分は採用しない。

そして、右のような事実に、前掲中村信行、中山四郎の各証言を合せ考えれば、右のような経過で被告が認定した時計用ガラスの単価は、その売値と原告会社の差益との関係からしても、高額すぎる違法な評定認定とはいえないものと認めるべきである。

原告が、棚卸単価を正確に記したものとして提出する甲第一一号(乙第一号証)並びにに証人松本憲一の証言及び甲第四号証は、前掲証拠に照しそのまま採用するわけにいかず、他に右認定を不当とすべき証拠はないのである。なお、原告は、被告が本訴における主張の過程(第四準備書面)において、厚山七―一〇型の単価を、その算出の根拠を示したうえ八〇銭と主張したのに対し、右算出の根拠を争い、かつ、被告がその後第五準備書面において右単価を五七銭と訂正したことを目して、被告の認定がいかに恣意的で合理性のないものであるかを暴露したものと非難するのであるが、右単価八〇銭との主張の当否はともかくとして、被告の最終的な主張である右単価五七銭は、被告がすでに審査決定において認定した価格であり、しかも、前記認定の次第で、右単価及びこれを基準とする他の型の単価の被告の認定は妥当なものと認められるのであつて、訴訟上に右のような経過事実があつたとしても、本件の場合これをもつて直ちに前記認定を左右するに足るほどのものとは認められないのである。

(二)  未製品、半製品、未加工品の各単価

前顕乙第二号証、証人中村信行、同中山四郎の各証言によれば、前記認定のような経緯により、これら未製品、半製品、未加工品についても当初申告の各単価を不当と自認する趣旨で小西社長が作成提出した乙第二号証の記載単価をそのまま容認して、原処分及び審査決定がなされたものであることがうかがわれるのであつて、右経緯に照し被告の評価認定は妥当なものと認めるべきである。この点に関する甲第一一号証(乙第一号証)並びに証人松本憲一の証言及び甲第四号証はそのまま採用するわけにいかず、他に右認定を不当とすべき証拠はない。

(三)  荒生地の数量及び単価

原告は、荒生地の在庫数量八三貫六〇〇匁、単価二五〇円と主張し、前顕乙第二号証中の記載もこれと同様なのであるが、証人中村信行の証言によれば、同人の調査に対し小西社長が、右数量が不当に少ないものであることを自認し、真実の在庫数量は八三二貫七〇〇匁であつたと回答したことが認められる。そして、成立に争いのない乙第六号証によつてうかがえる原告会社の本件事業年度当時の荒生地月産量に徴しても、右回答による八三二貫七〇〇匁という数量は、期末在庫として多すぎる数量とは認められないのであるから、右数量をそのまま容認した被告の認定は不当ではないと認めるべきである。単価については、右乙第六号証及び証人中山四郎の証言によれば、単価三〇〇円は、原告が主張するような他に販売する場合の販売利益を含めた価格ではなく、まさに、原告会社が自家消費した分についての原価、すなわち、棚卸原価であることが認められるから、これをもつて荒生地単価とした被告の認定は不当ではないと認めるべきである。

証人谷口末吉、同小西よし子の証言中、右の各認定に反する部分は採用できない。また、この点に関する乙第二号証、甲第一一号証並びに証人松本憲一の証言及び甲第四号証はそのまま採用するわけにいかず、他に右認定を不当とすべき証拠はない。なお、被告が第四準備書面において、荒生地数量を八三二貫七〇〇匁と認定した根拠として主張した計算内容が、それ自体不合理なものであつて首肯しえないものであることは原告の主張するとおりであるが、被告はその後右計算方法の主張を撤回しており、しかも、前記認定の次第で、八三二貫七〇〇匁との被告の認定は、結局において妥当なもの認められるのであつて、右のような不合理な主張がなされたという事実も、本件の場合、これをもつて直ちに前記認定を左右するに足るほどのものとは認められないのである。

(四)  原燃料石炭中塊の数量及び単価

原告は、在庫数量一一・八トン、単価三、五〇〇円と主張し、前顕乙第二号証の記載もこれと同様なのであるが、証人中村信行の証言によれば、同人の調査に対し小西社長が、右数量が不当に少ないものであることを自認し、真実の在庫数量は三二トンであつたと回答したことが認められ、この数量は、成立に争いのない乙第八号証によつてうかがえる本件事業年度末の手持石炭量に徴しても、多すぎる数量とは認められないから、これをそのまま容認した被告の認定は不当ではないと認めるべきである。単価については、成立に争いない乙第七号証によれば、原告会社は昭和二三年一〇月及び一一月当時、配炭公団から、石炭中塊を単価五、八四四円で八五トンも買入れたことが認められるから、それ以前にはより廉価で買入れていた事実も同時に認められるけれども、前記認定の同一一月末に存した三二トンについては、反証のない限り、右五、八四四円で買入れた八五トンの残量であると認めるのが相当で、そうだとすれば、証人中山四郎の証言により、関係燃料業者に対し当時の価格の照会をしたうえ原告会社の有利に、単価を四、八一二円としたものと認められる被告の認定は不当でないと認めるべきである。

証人谷口末吉、同小西よし子の証言中、右各認定に反する部分は採用できない。また、この点に関する乙第二号証、甲第一一号証並びに証人松本憲一の証言及び甲第四号証はそのまま採用するわけにいかず、他に右認定を不当とすべき証拠はない。

以上のとおり、当事者間に争いのある棚卸品目の単価、数量につき、被告のなした認定はいずれも不当ではないと認むべきものであるから、結局、原告会社の期末棚卸高は、別紙棚卸比較表の審査欄に記載のとおり合計一、二五六、四八五円ということになる。そして、証人中村信行、同中山四郎の各証言によれば、昭和二五年棚卸評価方法が法定されるに至つた以前の事業年度分について、本件のような棚卸品目については一割の評価減を認める税務の取扱慣行が存したことが認められるから、本件について、被告が、右一、二五六、四八五円の一割の評価減を認めて、結局一、一三〇、八三七円をもつて原告会社の期末棚卸金額としたことは相当である。してみれば、右金額と、原告会社が計上した七〇二、〇七八円との差額である四二八、七五九円は、評価の格下げ分として益金に加算さるべきものと認定するのが相当であり、被告の審査決定は違法でないといわなければならない。

なお、原告は、被告が本訴において、原告会社の棚卸金額につき、(一)当初一、一三〇、八三七円と主張し(第一準備書面)(二)次いで一、七三九、八六〇円と主張を訂正し(第二及び第四準備書面)、(三)次いで再び、当初の金額に主張を改めるに至つた(第五準備書面、すなわち、この一、二五六、四八五円との主張は、当初の一、一三〇、八三七円の一割評価減をする以前の金額であるから、この両者の主張は、実質的に同一の主張と認められる)ことを目して、被告の認定が合理性がないことを暴露するものと非難するが、本件の場合、右のような主張の変更も、必ずしも被告の最終用主張が不当でないことの認定の妨げとはならぬものであることは、すでに前記各品目について考えたとおりである。

三、以上の次第で、原告会社の得意先勘定負債額及び期末棚卸額に関する被告の認定には誤りは認められないのであつて、これらと当時者間に争いのない加算減算の項目とを通算すれば、本件事業年度末における原告会社の所得は、被告主張のとおり二、一三九、〇二三円となり、被告の審査決定には原告会社の所得を過大に認定した違法は存しないものというべきである。

よつて、原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石田哲一 裁判官 下門祥人 裁判官桜井敏雄は転任につき署名押印することができない。裁判長裁判官 石田哲一)

別表 棚卸比較表

〈省略〉

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